親しい人に手を握ってもらうと安心したり,ストレスが和らぐ効果がある.入院中などの隔離された環境や一人暮らしの家庭では人と触れ合うことができないため,ストレスを抱えている際に人の代わりに手を握ってくれるロボットを提案する.本稿では病院でのフィールドワークを踏まえ,ロボットを抱える強さによりストレスの有無を判断する手法の提案と,ぬいぐるみ型ロボットのプロトタイピングを行なった.ロボットを抱える強さとストレスの関係性について調べるため,タスク時と安静時でロボットを抱える強さを比較した.結果として,タスク時では安静時に比べて弱い力でロボットを抱えていることがわかった.今後は,ロボットを抱える力が弱まったタイミングでロボットに手を握らせることで,ストレス軽減への影響について検証する.
痛みに関する自己開示を促す対話ロボットの検討,島田愛里・宇治川遥祐・高汐一紀(慶大),電子情報通信学会技術研究報告,vol. 123, no. 394,pp. 41 – 46,2024年2月
本研究は,慢性的な痛みを抱える人を対象として,ユーザの違和感に気づく対話システムを構築することを最終的な目的としている. 従来,先行研究の多くは見守りを目的とした雑談機能に注目しているが,痛みを聞き出すことに着目した研究は多くない.主観的な感覚である「痛み」を言語化して正確に伝えることなどの痛みに関する自己開示は困難である.そこで,ユーザとの日常会話から,ユーザが痛みを感じていることを検知して,痛みについて詳しく聞き,内容を記録,共有する対話システムの実装を目指し,本稿では「痛み」
パーソナルテンポに同調する発話システムの実装と評価,宇治川遥祐・高汐一紀(慶大),電子情報通信学会技術研究報告,vol. 123, no. 347CNR2023-30,pp. 25 – 30,2023年1月
人間は日常生活の中で、パーソナルテンポと呼ばれる自分独自のテンポをキープしている。対話の場面においてもテンポの重要性は高く、対話相手とテンポを揃えることができれば、スムーズかつ理解度がより高い会話につながると考えられる。本稿ではパーソナルテンポをモーラ数を持続時間で割った値である話速で定義し、ユーザの話速に合わせて発話するシステムを実装する。内容の理解度への影響を分析する事で、対話への有用性を検証する。
A Preliminary Study for the Ethereum Blockchain-Based Smart Home Systems,C. Yiyang ・K. Takashio (Keio Univ.), 2022 13th International Conference on Information and Communication Technology Convergence (ICTC),2022, pp. 71-76
The application of blockchain technology means that smart home devices will be greatly improved in terms of versatility and security, allowing people to use them more safely and conveniently in their daily home life. For smart home practitioners, blockchain technology means the arrival of the next “window”, indicating that the industry will develop from the budding stage to the popular stage. This paper proposes a smart home system based on the Ethereum blockchain as a platform. Through the use of smart contract technology, it not only builds a closed-loop management platform from energy suppliers to end users but also realizes cross-ecological communication. At the same time, this paper also examined the latency problem of “solidity” in the multi-contract call environment. By comparing the local pace test and the blockchain-side pace test, we found that the function invoked pace inconsistent between local-side and chain-side existed but the delay can be controlled within one second.
雑談対話システムにおける言い訳を用いた対話破綻回避手法の提案と評価,小笠原隆晴・古谷優樹・高汐一紀 (慶大),電子情報通信学会技術研究報告,vol.122,no. 394,pp. 7-12,2023年2月
対話システムとの自然な対話を実現するには,対話破綻を解消する必要がある.しかし,対話破綻を検出する研究は多く行われており,手法も確立されている一方で,対話破綻検出を行った後,どのように対話破綻を回避するのかという対話破綻回避をテーマとして扱った研究は,相対的に見て数が少なく,明確な手法も確立されていない.そこで,本研究ではこの対話破綻を,システムが言い訳を返すことで回避する手法を提案する.言い訳は主に自分の失敗・過失に対する弁明・謝罪と定義されている.これを対話システムに置き換えると,対話破綻をシステム視点での失敗・過失として解釈できる.以上の経緯から,ユーザーに好印象を与える言い訳応答を返すことで対話破綻回避を行うモジュールを作成し,対話システムへの実装を行った.また,システムの実運用を想定とした主観視点の印象評価実験と,対話内容の定性的な評価を行う客観視点の印象評価実験の2種類の実験を実施し,提案手法の有効性を示した.
ロボティクスと XR による New Experience ,高汐 一紀,NATURE INTERFACE Aug. 2023 no.88 pp.16-19
本稿では、著者らのラボ(Keio SFC Sociable Robots Lab.)が進める Harmonious Augmented Town プロジェクトを紹介する。同プロジェクトでは、XR とロボティクスを駆使した新しい街の DX プラットフォームを、鳥取県内の特定地域をモデルケースに構築することを目指している。
モダリティと対話者間関係性が共通基盤構築過程に与える影響の分析 , 古谷優樹・齋藤光輝・小倉功裕(慶大)・光田 航・東中竜一郎(NTT)・高汐一紀(慶大), 信学技報, vol. 121, no. 397, CNR2021-32, pp. 25-31, 2022年3月.
ロボットやバーチャルエージェントが人と自然に対話するためには,ユーザーとの共通基盤を構築することが不可欠である.人間同士の対話における共通基盤の構築過程を調査した先行研究は少なく,その多くはテキストチャットをベースにしたものである.そこで本研究では,対話のモダリティ,および,話者間の社会的関係性に着目し,これらの要素が共通基盤の構築過程に与える影響を調査する.具体的には,対話のモダリティとして音声または映像,話者間の関係性として初対面または知人という条件において,話者間で共通基盤が構築される対話の収集,および分析を行った.その結果,より多彩なモダリティやより深い社会的関係性が共通基盤の構築を加速させることが示唆された.本研究で収集したコーパス,および,分析の結果はロボットの研究開発にも有用である.
Dialogue Corpus Construction Considering Modality and Social Relationships in Building Common Ground. Yuki Furuya, Koki Saito, Kosuke Ogura, Koh Mitsuda, Ryuichiro Higashinaka, and Kazunori Takashio. 2022.In Proceedings of the Thirteenth Language Resources and Evaluation Conference, pages 4088–4095, Marseille, France. European Language Resources Association.
Building common ground with users is essential for dialogue agent systems and robots to interact naturally with people. While a few previous studies have investigated the process of building common ground in human-human dialogue, most of them have been conducted on the basis of text chat. In this study, we constructed a dialogue corpus to investigate the process of building common ground with a particular focus on the modality of dialogue and the social relationship between the participants in the process of building common ground, which are important but have not been investigated in the previous work. The results of our analysis suggest that adding the modality or developing the relationship between workers speeds up the building of common ground. Specifically, regarding the modality, the presence of video rather than only audio may unconsciously facilitate work, and as for the relationship, it is easier to convey information about emotions and turn-taking among friends than in first meetings. These findings and the corpus should prove useful for developing a system to support remote communication.
Novel Robotics Design
ロボットは幅広い分野でそれぞれの要求や課題に合ったロボットが活用されている.それらのロボットを設計・開発していくためには,求められる仕様に沿って,形状や機構のデザインを行っていくが,様々なデザインやアクチュエータ,機構が存在するロボットに対して,求められる要求に最も適したデザインや機構を設計していくことは難しい.そこで本研究では,ロボットのデザインや機構に,アルゴリズミック・デザイン手法を応用することで,求められる最適なデザインや構造を得ることを目的とするとともに,人とロボットの協奏社会の実現に向け,人とのインタラクションに適したデザインも追求していく.
近年のコンピューティング能力の向上によって,シミュレーション上でロボットを動かすことや,強化学習を用いて動作を学習させることなどが可能となっている.そのようなシミュレーション上での計算を踏まえることで,複雑なロボット設計がより容易になるとともに,人間が行う設計だけでは得られない,それぞれのロボットに求められる最適な設計やデザインを得ることが可能になると期待する.また,現在の3Dプリンターのように,個人が身近な問題に対して,初心者でも簡単にロボットを設計・製作して対処することが出来る社会を期待している.
アルゴリズミック・ロボットデザインの手法の開発
ロボットの形態や機能は多岐にわたり,それぞれのロボットに対して,求められる要求に最も適したデザインや機構を設計していくことは難しい.そこで本研究では,ロボットのデザインや機構に,アルゴリズミック・デザイン手法を応用し,ロボットやアクチュエータの動きや動作,ユーザによる評価を考慮しながら様々な制約下でそれぞれのロボットに求められる最適なデザインや構造を得ることを目的とした,「アルゴリズミック・ロボットデザイン手法」の提案と開発を行っている.
2020年度未踏IT人材発掘・育成事業
https://www.ipa.go.jp/jinzai/mitou/2020/gaiyou_tn-3.html
Motivating for Human Behavior
一般的に,人は不特定多数の人に対してある一定の行動を促す時,張り紙の文字表記やアナウンスの言語音声などで指示をする.他方,犬や猫などの動物は人に一定の行動を促したい時,動作や鳴き声で意思を訴える.人は,動物に対して始めから 完璧な意思伝達を求めず,彼らの挙動から意図を読み取ろうと試みる. 結果として,動物は自らの己の挙動から人に行動意図を想像させ,間接的に行動を促すことが可能となる.動物が用いるこのような間接的な行動誘発の手法は効率的とは言えないが,人の想像力を用いて自発的な行動を誘発する為,言語に依存する事も少ない. そこで本研究では,人に対して行動誘発する手法として,日常的に存在する「モノ」を意思のあるかのように動作させる.この時,人はそれぞれの使用言語や年齢に関わりなく,更に人に不快感を抱かせずにモノの行動意図を想像させ,自発的な行動をとらせるような,行動誘発の手法を研究する.
日常的に存在するモノの動作を通して,人の自主的な行動を誘発する事が可能になる.一方的な行動指示とは異なり,人がモノの行動意図を読み取ろうと想像力を働かせることで,行動を指図される事に対する不快感を抱きにくく,行動目的を果たした際に達成感を得られる可能性もある.例えば,行動範囲の規制が取られている空港内などでの誘導法として有効性が期待できる。新型コロナウィルスの蔓延により,空港内ではハイリスク国からの渡航者とその他の利用者が接触しないような対策が講じられているが,明確な棲み分けができていない現状がある.そこで,非言語的で自然な行動誘発を加えることで利用者に不快感を与えずに範囲を制限しつつ,安全を確保することができる.
本研究 では,間接的に人に対して行動誘発する手法として,日常的に人が見慣れているボールを「犬」と「猫」の挙動を元 に意思のあるかのように動作させる.この時,人はそれぞれの使用言語や価値観に関わりなくモノの行動意図を想像し,不快感を抱かずに自発的行動をとるか検証する.
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