対話システムとの自然な対話を実現するには,対話破綻を解消する必要がある.しかし,対話破綻を検出する研究は多く行われており,手法も確立されている一方で,対話破綻検出を行った後,どのように対話破綻を回避するのかという対話破綻回避をテーマとして扱った研究は,相対的に見て数が少なく,明確な手法も確立されていない.そこで,本研究ではこの対話破綻を,システムが言い訳を返すことで回避する手法を提案する.言い訳は主に自分の失敗・過失に対する弁明・謝罪と定義されている.これを対話システムに置き換えると,対話破綻をシステム視点での失敗・過失として解釈できる.以上の経緯から,ユーザーに好印象を与える言い訳応答を返すことで対話破綻回避を行うモジュールを作成し,対話システムへの実装を行った.また,システムの実運用を想定とした主観視点の印象評価実験と,対話内容の定性的な評価を行う客観視点の印象評価実験の2種類の実験を実施し,提案手法の有効性を示した.
ロボティクスと XR による New Experience ,高汐 一紀,NATURE INTERFACE Aug. 2023 no.88 pp.16-19
本稿では、著者らのラボ(Keio SFC Sociable Robots Lab.)が進める Harmonious Augmented Town プロジェクトを紹介する。同プロジェクトでは、XR とロボティクスを駆使した新しい街の DX プラットフォームを、鳥取県内の特定地域をモデルケースに構築することを目指している。
モダリティと対話者間関係性が共通基盤構築過程に与える影響の分析 , 古谷優樹・齋藤光輝・小倉功裕(慶大)・光田 航・東中竜一郎(NTT)・高汐一紀(慶大), 信学技報, vol. 121, no. 397, CNR2021-32, pp. 25-31, 2022年3月.
ロボットやバーチャルエージェントが人と自然に対話するためには,ユーザーとの共通基盤を構築することが不可欠である.人間同士の対話における共通基盤の構築過程を調査した先行研究は少なく,その多くはテキストチャットをベースにしたものである.そこで本研究では,対話のモダリティ,および,話者間の社会的関係性に着目し,これらの要素が共通基盤の構築過程に与える影響を調査する.具体的には,対話のモダリティとして音声または映像,話者間の関係性として初対面または知人という条件において,話者間で共通基盤が構築される対話の収集,および分析を行った.その結果,より多彩なモダリティやより深い社会的関係性が共通基盤の構築を加速させることが示唆された.本研究で収集したコーパス,および,分析の結果はロボットの研究開発にも有用である.
Dialogue Corpus Construction Considering Modality and Social Relationships in Building Common Ground. Yuki Furuya, Koki Saito, Kosuke Ogura, Koh Mitsuda, Ryuichiro Higashinaka, and Kazunori Takashio. 2022.In Proceedings of the Thirteenth Language Resources and Evaluation Conference, pages 4088–4095, Marseille, France. European Language Resources Association.
Building common ground with users is essential for dialogue agent systems and robots to interact naturally with people. While a few previous studies have investigated the process of building common ground in human-human dialogue, most of them have been conducted on the basis of text chat. In this study, we constructed a dialogue corpus to investigate the process of building common ground with a particular focus on the modality of dialogue and the social relationship between the participants in the process of building common ground, which are important but have not been investigated in the previous work. The results of our analysis suggest that adding the modality or developing the relationship between workers speeds up the building of common ground. Specifically, regarding the modality, the presence of video rather than only audio may unconsciously facilitate work, and as for the relationship, it is easier to convey information about emotions and turn-taking among friends than in first meetings. These findings and the corpus should prove useful for developing a system to support remote communication.
瞬きの引き込みを利用したインタラクティブロボットの実装と評価,飯森優斗,古谷優樹,高汐一紀,信学技報, vol. 122, no. 193, CNR2022-10, pp. 13-17, 2022年9月.
目は人とロボットのインタラクションにおいて重要な要素である.特に瞬きは,瞬きの引き込み現象によって会話の切れ目を共有するといった重要な役割を持つことが知られている.しかし,一般的なコミュニケーションロボットでは,価格を抑えるために瞬きなどを再現する機構が削減されている.そこで,瞬きを物理的に再現したロボットを低コストで実装し,瞬きの引き込み現象を起こすことを目的とした.本稿では,ロボットの実装および実装したロボットの瞬き動作の印象評価について報告する.実験の結果,瞬きの引き込みを再現する動作はロボットの親和性を一部において高めることが示唆された.
人の存在感の創出手法を導入したARナビゲーションシステムの実装,有吉諒真,谷中健大朗,高汐一紀,信学技報, vol. 122, no. 193, CNR2022-12, pp. 23-28, 2022年9月.
AR 分野においてナビゲーションはスマートフォンの利用が多いが手が塞がり没入感を損なうため,ARのスタンドアローン式HMD を使用することが望ましい. しかし,HMD を利用したAR ナビゲーションは外部環境の影響を受けやすく没入感や臨場感を阻害する.また,AR ナビゲーションの利用先で過去にいた人の痕跡を知るためには二次元コンテンツの視聴などに限られ,臨場感や存在感を得ることはできない.本研究では,それら臨場感や存在感を損なう要因を排除し,アバタとインタラクションを可能なAR ナビゲーションの実装を目標とする.その前段階として,今回は存在感を持つアバタの表示方法を調査する.HoloLens 2 を使用して3 つの抽象度でアバタを段階分けし,それぞれモーションを付与し慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスに重畳させて実験をした.結果は抽象度が一番低く人間に一番近い外見のアバタが特定の質問項目で存在感が高まることが示唆された.また,アバタの外見が現実に近いとアバタに恐怖心や違和感を感じる「不気味の谷現象」を観測した.
パートナーロボットの受容要因の分析 ~ 動物らしさとは何か? ~, 齋藤光輝, 古谷優樹, 高汐一紀, 信学技報, vol. 121, no. 267, CNR2021-9, pp. 11-15, 2021年11月.
本研究では,パートナーロボットが家庭に受容されていく中でどのような動物らしさが重要になっているかを分析した.アンケートでは視覚的・聴覚的・触覚的要素の動物らしさを調査し,それぞれの要素の部分的な動物らしさと利用期間の間でどのような傾向があるのか分析した.また,ユーザがロボットの動物らしさをどのような側面から感じ取っているのかを,ロボットの各要素の動物らしさと生物感の関係を分析して示した.
その結果,ロボットの知性や形の動物らしさ等の項目が受容要因となっている可能性が示唆された.また,ロボットの動きの滑らかさ,声以外の音量の動物らしさといった要素からユーザはロボットに生物感を感じていることが示唆された.
A Feasibility Study of An Intelligent Environmental Monitoring System Based On The Ethereum Blockchains, Cheng Yiyang, Kazunori Takashio, 2021 International Conference on Information and Communication Technology Convergence (ICTC 2021), pp. 435-439, doi: 10.1109/ICTC52510.2021.9621007.
In today’s era, the security and authenticity of information have always received extensive attention, especially when people have doubts about the authenticity of data. Hence, a traceable data storage platform with the feature that theoretically cannot be tampered with becomes extremely important. Under such demands, the deployment of smart contracts can effectively trace the source and discover problems. This article introduces an environmental data detection platform based on blockchain technology and smart contracts. It aims to record the data continuously and verify the authority of each transaction.
テレプレゼンスロボットにおける遠隔ユーザの身体性を考慮した表示手法の検討, 古谷優樹, 高汐一紀, 信学技報, vol. 121, no. 93, CNR2021-3, pp. 8-13, 2021年7月.
テレプレゼンスロボットを用いることで,ユーザは遠隔地で行われている空間を自由に移動することで臨場感を感じることができる.しかし,遠隔ユーザと会話を行う現地ユーザの視点に立つと,市販のテレプレゼンスロボットは遠隔ユーザの顔面部分を表示するディスプレイのみを搭載しているものが大半であり,感じられる遠隔ユーザの存在感は限定的である.そこで,本編では,遠隔ユーザの全身を表示することで遠隔ユーザの身体性を再現するテレプレゼンスロボットのプロトタイピングを行った.また,プロトタイプを用いて,表示範囲の違いによる影響を調べる実験を行った.全身表示型テレプレゼンスロボットは,現地ユーザが感じる遠隔ユーザの存在感工場に寄与することが示唆された.
HRIにおける視線行動が参与者間の共通基盤構築に及ぼす影響, 桑原多瑛, 山口留実, 渡辺巧登, 古谷優樹, 高汐一紀, 信学技報, vol. 120, no. 394, CNR2020-17, pp. 22-27, 2021年3月.
HRI(Human-Robot Interaction)でスムーズな会話を行うためには,ロボットにマルチモーダルに人間の会話を解釈し,また言語と動作の両方を適切に人間に解釈してもらうためのシステムが必要である.本研究では,会話において会話参加者が持つ情報のうち,視線行動に着目し,HRIにおける共通基盤構築の補助となるようなロボットの視線行動を考察する.HHI(Human-Human Interaction)を元に視線行動の分析を行い,ロボットに適切な視線行動の仮説を立てて実装し,評価実験を行う.