電話や電子メールといった遠隔コミュニケーションツールが普及する中でも,対面コミュニケーションは依然として重要である.2020年には,新型コロナウイルス感染症による影響で,世界中でビデオ通話アプリケーションの利用が急増したが,そうしたアプリケーションの限界を感じる場面も多い.そこで,遠隔地にいる人間の存在感を再現するテレプレゼンスという技術が注目されている.テレプレゼンスは,元々は危険な場所でオペレータが遠隔操作を行うような技術であった.しかしながら,コミュニケーションの文脈にも拡張されて以来,遠隔ユーザが感じる臨場感と現地ユーザが遠隔ユーザに対して感じる存在感の双方が重要になってきた.本プロジェクトでは,テレプレゼンス技術をロボットに搭載したテレプレゼンスロボットにおける存在感を向上させるアプローチに関して研究を行う.
遠隔コミュニケーションシステムが普及することにより,我々は移動という行為に時間をかけることなく,物理的制約にとらわれない生活が可能となる.実際に,新型コロナウイルス感染症流行下では,旅行先で仕事をする「ワーケーション」というスタイルが積極的に利用されるようになった.また,首都にある本社機能を縮小するというような決定をした企業もある.日本国内においては,多くの企業を始めとし社会的活動が都市部に集中している.必然的に,これらの三大都市圏に住む人々は日本の人口比51.8%にのぼっており,都市部への人口集中が課題になっている.しかし,オンライン上での遠隔コミュニケーションが進むと,地方と都市といった場所の違いが問題にならなくなる.都市と地方の格差問題や医療サービスの都市部集中といったような諸問題が解決される可能性さえ出てくる.
コミュニケーションには非言語行動や身体的な情報の伝達も必要不可欠である.しかし,既存のテレプレゼンスロボットは,顔面のみがディスプレイに表示されるものがほとんどである.遠隔ユーザの表示範囲を拡張することによって,伝達されるモダリティを拡張することができると考えられる.本プロジェクトでは,遠隔ユーザの表示部位と存在感の関係についてプロトタイプを実装し,調査する.
空間内に溶け込むテレプレゼンスロボット
身体性を高めたテレプレゼンスシステムを二次元ディスプレイで実装すると,遠隔ユーザの背景の存在が存在感を阻害する恐れがある.そこで,本プロジェクトでは,遠隔地背景と存在感の関係性について調査し,その問題を解決するアプローチの実装を行う.